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道標(2)コーチングと信頼関係 〜信頼関係は空気を読み取ることから〜
2003年6月
 

掲載記事前回、コーチングとは「相手の自発的な行動を促進するコミュニケーション・スキル(技術)」だと定義した。理解を早めるために過去の例を紹介しよう。
ことの起こりは、宮古地区職域野球のCクラスで琉銀が優勝したことにある。時は私が琉銀宮古支店に勤務していた二十年前。日曜日ともなると、単身赴任の次長を中心に若い男子行員たちは全員寮に集まり、空いたグラウンドを探しては野球の練習に励んでいた。その結果が優勝である。
  優勝したチームは沖縄本島の奥武山野球場に出向いて試合をすることになっている。数日後、われわれチームの試合は七月三日の月曜日に決まった。当然「辞退だ!」 選手に補員と監督を加えて十一名が超多忙日の月曜日に銀行を留守にすることは到底考えられないからである。しかも団体で島を離れることは支店長権限を超えている。ところが試合の申込日は目前に迫ってきた。選手たちの落ち着かない様子が見てとれる。選手たちの熱い思いに次長の心は突き動かされてきていることがはた目にも分かる。離島勤務の長い行員が本島に出て、試合をすることは千歳一遇のチャンスだ、という次長の思いは私のそれを遥かに超えていた。
彼は将棋の駒を動かすように十一名の行員が欠けた時の仕事をシュミレーションしていった。綿密に書き込んだ表を持ってきては「仕事に支障はでない」ことをとくとくと説明した。この調整作業は四、五回繰り返された。ついに決断のときが来た。
全行員が賛成することを条件に「OK」の決断をした。
次長には、本部には申請しないこと、すべての責任は支店長がとることを申し添えた。試合前日の午後の便で彼らを空港で見送った。彼らが飛び立ったあと、私の心境は複雑なものだった。
翌日、「一回戦で敗れた」との報が次長から届いた。「残念だったね」というと同時に支店長としての私の首もつながった、と胸をなでおろした。彼らは火曜日の一便で帰島して朝礼に参加し、みんなに礼を言った。その日からの彼らの頑張りが飛躍的だったことは言うまでもない。
そして数年前、当時の名(?)選手たちが集い、酒を酌み交わしながらその時の話に及んだとき、みんなが感涙にむせんだのを見て、私の決断はあれで良かったとの感を強くした。
  コーチングの重要なスキルの中に、「聞く」、「質問する」、「承認する」、「提案する」ことなどがあるが、当時は無意識のままにコーチングのスキルを使っていたことに気づいた。
また、コーチングのリーダーシップの中には、「doing(行動)」,[being(あり方)],[space(空間)]がある。リーダーが見落としがちなのが、この「space」である。これは相手の心あるいはその場の空気をつかみ取ることである。前例では次長が、若い行員たちの熱い思いを読み取り、その実現に向けていろいろな方法を提案したこと。また、次長に対し深い信頼を持っていたことで、支店長の権限を侵してまで次長の誠意に応えようとしたことがこのスペースである。
それらのことを考えると、このコーチングは何も新しい手法ではなく、以前から存在したものであり、それを意識して行動するか否かだけである。ただ、テイーチング(教える)でないことだけは確かである。